究光塾リポート

第三十四回 究光塾リポート

2019年07月11日

< 講師 中村より お伝えしたこと 抜粋 >

 

☑ 自身の価値観と合わないもの

人間というのは、どうしても自分自身の経験則に当てはめたりとか、自分自身を正当化するような情報をどうしても集めがちなんです。それは、自分が理解できることとか、自分が関心のあることだけを耳に入れたいからであって、自分が理解できないこととか、自分が関心のないことは、自分の耳に入れようとしないところが人間には誰しも本能的にあるわけなんです。ですから、「ああ!! そういう考え方があるのか?」というものごとを、どれだけ受け入れられることができるか、が大事なことだと思いますね。 「そういう考え方があるのか?」というところが自分の価値観に合わなかったら、「そんなの違うよね...」とか、「この人の言っていることは、ズレているよね...」という評価にしてしまうことがありがちなわけですが...。でも、その人の話はものすごく的をえた話かもしれないですし、本当にズレた話かもしれないですが、そこをどう判断するか?というのが、結局、論理的にものごとを考えるというところに繋がってくるわけなんですけれども、そこの判断というのは非常に難しいと思います。

 

☑ 個別対応

今の世の中の流れとしては、個々人に対して対応していくこと、個々人ごとにその人が望んでいることに対応していくことが、非常に必要だと言われています。そして、事業の規模によっては、この個別対応というものに充分対応していける、個人の嗜好性というものに合わせていけると思います。お商売によっても違ってくるでしょうが、ある程度の規模になると、世の中の最大公約数のような、「今、世の中のお客さんというのは、大体こういうことを求めているよね...そこがストライクゾーンに入らない人たちは、ご免なさいね...」というような、いわゆる大衆(マス)を相手にしていかないといけないわけで、お客様の幅も広いと思います。

一方、小規模・小単位で事業を行っているようなところですと、世の中の最大公約数を考えるのではなくて、その人の個別の好みを把握して対応していく、個々人の嗜好性を把握して自分たちがそれをどう実現していけるか、というところにエネルギーをもっていった方が、そのエネルギーを注ぐことに対する効果というものが得られると思います。大衆性・"マス"を相手にしたところでないところの方が私は好きです、というお客様が支持をしてくれます。

ホテル業界をとってみても、たとえば、東横インのような価格帯のところというのは、サービスが画一的なわけですよね、でも、それが高級ホテルになると...、それも超高級ホテルというところに対して、どうしてお金持ちが納得するのかというと、ある程度、個別対応をしてくれるというところにあるわけです。"高級感がある"ということが一体何か?と言うと、高価な調度品、ソファであれ、ベッドであれ、机が置いてあったら、それが高級感かと言ったら、決してそういうわけではなくて...。もちろん一部には、そういう成金主義な方もいらっしゃるでしょうけれども、本当に成金ではないお金持ちの方というのは、自分に合っていることが高級だと感じる。極端に言えば、リーズナブルなユニクロの服を着ていたとしても、それが自分に合っていれば高級だと感じるわけです。でも、そういったことが全然分からず、何かブランドのマークが付いていたら、それを高級だと感じる人も居る。本当にものを分かっているお客様を相手にできるところというのは、お商売としては強くて、たとえばブランドのマークとか、そういうところばかりに目が行く人というのは、また移り変わりも激しかったり、自分にお金があるときは買ってくれるけれども、自分にお金がなくなったらそういうこともできない、ということになってしまいますからね。

 

☑ 信頼を寄せる人の行動・言動

たとえば私が長いお付き合いをさせてもらっている、あるお店の人などは、私の好みをよく分かってくれているし、私の性格もよくよく分かってくれていて、本当に適格な時期に、適切な案内のご連絡をいただけるんです。私は信用した人のことは100%信用するので、ある意味、ものすごく扱いやすい。でも、不信感を持ってしまうと、ものすごく不信感を持って見るので、ものすごく扱いにくいんですけれども...。その人は、私が不信感を抱いたときにも、本当に適切な対応をしてくれて、きちんと人間関係を適切に戻していく、ということをしてきてくださった人なので、長くお付き合いをしていて、うちの家内も、ものすごく信用している人なんですけれども...。

で、その人は、たとえば、私が関心のないものであっても、「ひょっとすると、中村さんは知らないだけだから、こういうふうなことも、知れば関心を持つかもしれない...」とか、または、私自身が「これが良い」と思うと、とことん突き詰める性格なので、逆に視野が狭くなってしまうということも、その彼は分かっていて、「まあまあ、ご案内まで...なんですけれども...」とか「これは、ご紹介までなんですが...」という、示し方をするわけです。 「一応、うち、こういうものも扱うようになったんです、ちょっとご案内まで...」とか、「中村さん、いろんな情報を持っておられるし、いろんな見識をお持ちだから、これちょっとご意見いただきたいと思いまして...」とか、といった薦め方をしてくれるんです。だから私がお店の近くまで行ったら、「食事しましょうか?」と言って、引っ張り出したりもするんですけれども・・・。というのは、彼とのそのやり取りが私にとっては気持ち良いから...。

でも、その彼は、自分の意見もしっかり持っていて、私に対して、「うちはこういう風なマーケティングをやっています...」というような話もしてくれる。なかなか私に対して、マーケティングや戦略に対する話をしてくる専門家以外の人はいらっしゃらないんですけれども、彼は自分の意見・考えもきちんと持っていて、根拠を立てて、単に私と話を合わせるために、ではなくて、「こういうことをやりたいから...」ということも話をしてくれます、ものすごく勉強しておられると思います。で、そこで、また、私が「違うよ、それは...」と言うと、それに対してもきちんと受け入れる。

何かというと、その彼は、自身のお商売や仕事に対する想いや情熱をきちんと持っている、前回の講義のなかで申し上げた「説得の三要素」でいうところの、いわゆる"情動性"を持っているんですね。でも、その情動性を相手に押し付けない上手さも併せ持っている。「こういうものもあるんですよね...」と言ったり、「こういうものって、私よりも中村さんの方が詳しいと思うので、ボロクソの意見でも良いですから、ちょっとご意見いただけませんか?」というようなアプローチをされると、私も悪い気もしないので、「こうだよね、ああだよね」と話をする。そうしてコミュニケーションがしっかり取れることで、より信頼度も増していくことになるんですね。

 

☑ 信頼を寄せる人の行動・言動 その2 

私なども、若い頃からコンサルティングの仕事をしていて、「社長、会社を良くするために、こういう取組みをしていかないといけないですよ」とか、「こういう教育をしていくべきですよ」と申し上げたときに、ハッキリ言われたことがあるのは、「あんた、自分のところが仕事を欲しいから、そういうことを言うんやろ...」ということが実際にありました。「いやいや、そうではなくて...」「だから、私を使っていただかなくても良いですから、こういう取組みはなさった方が良いと思いますよ」「私を使っていただかなくても、こういう教育はちゃんと社員さんになさっておかれた方が良いと思います」という言い方をしていました。

先程の話で、私が信用している人というのは、商売っ気をあまり感じさせないアプローチをする人なので、その時は理解できなかったとしても、後から、「ああ、言うてるとおりだったなぁ」とか、「言うてはったとおり、こっちで良かったなぁ」ということがあるんですね。だから、それも結果的に信用に繋がっていくんですけれども...。そこでは、純粋に相手のことを想って言っている、というところが、どれだけ相手に伝わるか、伝えることができるか、になっていくのだろうと思います。稲盛さんの言葉で、「動機善なりや、私心無かりしか」という言葉を以前にご紹介しましたけれども、本気で相手のことを想ったアプローチをしていくことが大事になるというところであります。

 

☑ 信頼を寄せる人の行動・言動 その3 

私が長いお付き合いをさせてもらっている人たちというのは、たとえば、メールでの案内なども、適切に、嫌味ったらしくなく送られてきます。定期的にお店に行かなくても、それこそ、半年、1年、お店に行けてなくても、ちゃんと送ってきてくださるんです。多くの人は、メール案内しても、しばらく来てもらえなかったら、「面倒くさいなぁ...」とか、「ああ、この人は、もう来ないなぁ...」と送ることを辞めてしまうんですけど、私が長いお付き合いがある人たちっていうのは、私が本当に仕事が忙しくっていけない時でも、たとえば、きちんと「今月の勤務シフトがでました、これこれ、こうです...」と連絡をくださいます。そうすると、私も、なかなか行けない中でも、「ああ、行ってあげないとなぁ」と思うので。で、半年、1年ぶりにでも来店すると、本当に喜んでくださいます。そうなると、相手にとっても、「ああ、きちんとご案内をしておいて良かったなぁ...」となるんだろうと思います。送らなくなるのは、結局は、自分の都合なわけですよ。私も送ってきて下さったものに対しては、きちんと返信しますから、「ごめんなさいね、今、忙しくって...。また、時間を作って行きますからね...」と、送ってきて欲しい方には返信をしますから...。 相手としては何らかの理由があって来れない場合もあるわけですから、それを自分の都合で連絡することを辞めてしまうと、今までメールを受け取っていたこちらの側としても、行きづらくなるわけです。それが、顧客目線で考えるということにも繋がるのではないかと思いますね。

 

☑ 「フレームワーク」と論理的思考

私がこの数年間、特に思うのは、ロジカルシンキング・論理的に思考することの重要性です。論理的に思考ができなかったら、いわゆる「フレームワーク」というものを使いこなせませんし、逆にいえば、論理的に思考ができている人は、フレームワークを知らなくっても、きちんと環境を把握したり、捉えることができていると感じます。どうして論理的にものを考えることが必要かと言うと、戦略を考えたり、問題解決の対応策を考えたりするときに、たとえば、ミッシーであったりとか、論理が飛躍していないかなどを、きちんと考えられているか考えられていないかが、意思決定をする際には非常に重要なことなので、論理的にものを考えることが大事なんですよ、ということであります。

 

自分の会社を取り巻く環境を考える、企業組織の大きい小さい関係なく、会社の「外」と「内」を把握しないといけない、というのはなにかと言いますとね...「外部環境分析」と「内部環境分析」というのは、学者の人たちの綱引きでありまして、自分たちが唱える説を主流にしたいというところがあります。非常に有名な学者の先生で、マイケル・ポーターという名前を聞かれたことがあると思いますが、この方がおっしゃっているのは、外部環境が大事だと、つまり、儲かっている業界に行けば会社は絶対儲かるという考え方です。「PEST分析」とか、「5Forces」というようなフレームワークが外部環境を分析するフレームワークになります。

一方で、イヤイヤそうじゃないですよ、いくら良い環境に行ったとしても、会社に力がなかったら、そこで勝ち残ることはできないでしょ、というのが内部派と言われていまして、Resource-Based View派と言われる、あと、Capabilityという言葉を使ったりもしますけれども...。フレームワークとしては、たとえば、「バリューチェーン分析」とか、「VRIO分析」といったフレームワークがあります。で、よく使われる例としては、こういうことであります。

大谷翔平というメジャーリーガーがいてますけれども、彼は、メジャーに行って、ピッチャーをして、今は故障しているので、ピッチングはしていないですけれども・・・バッターでも4番を打っている。あの松井秀樹さんでも、なかなか4番を打ち続けることはできなかったのに、メジャーリーグで4番を打っていると。ピッチャーの方でも、大リーグの選手を相手にして勝ち星を挙げられるような、そんな選手です。それは、大谷選手はメジャーリーグに行ってプレーした方が良いよね、と誰もが納得できると思います。でも、日本のプロ野球で、ピッチャーとして勝てるか勝てないか、バッターとして打てるか打てないか、というような選手に対して、メジャーリーグに行った方が絶対に良いよ。日本のプロ野球と比べて、メジャーは5倍10倍年俸が高いから、メジャーに行った方が稼げるよ、と言って、それでその選手がメジャーに行ってじゃあ、お金になるかと言ったら、ならないわけですよね。やはり大谷翔平君のような実力のある選手が、たとえば、もし台湾や韓国とかのプロ野球でやっていたとするなら、それではお金にならないから、それだったら日本のプロ野球に行った方が良いし、さらに日本よりもアメリカのメジャーリーグに行った方が良いよね、ということになります。たとえば、サッカーでも、Jリーグでレギュラーなれるかなれないかのような人が、いくら欧州の主要リーグに行った方が給料上がるよ、と言っても、そもそも日本で活躍できない人が、海外に行っても仕様がないわけです。それと同じような形で、「環境」と「自分の持っている能力」両方が合わさらないと、会社というのは成長していきませんよ、という考え方が、外部環境と内部環境とで考えていくうえで、考えが分かれているところであります。

ですから、両方ともきちんと考えないといけなくて、その両方に渡っているものが、「3C分析」とか「SWOT分析」というところで、3Cというのは、大前研一さんが考えたものでありますけれども、3Cだけではちょっと足らないなぁ、ということで、「SWOT分析」というものがあります。SWOT分析では、強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)というので内部環境を考え、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) というので外部の環境を考えている、内部と外部の両方を考えないといけないよね、というのが、このSWOT分析を提唱した学者の方が言っていることであります。ですから、SWOT分析の図に言葉だけを入れても何ら意味がないんです。内部環境・外部環境、それぞれ、きちんと分析をしたうえで、自社の事業ドメインというものを設定していくのが、戦略を考えるうえで重要なことになります。

 

☑ 事業ドメインの重要性

事業ドメインというのは、企業の活動範囲とか生存の範囲のことです。誰に対して(市場軸)、どのような強みを活かし(技術軸)、どのような価値を提供するか(機能軸)というものによって成り立っています。ドメインには二つの側面がありまして、ドメイン事業領域というのは、自社としての取組み範囲を設定するというのがあって、「基本理念の共有」と「環境分析」というのがあります。事業ドメインは、企業としての想いをもとに設定する必要がありますから、理念とかビジョンが必要になります。そして、今、お伝えしたように、環境を分析することが必要になります。何故かというと、企業が置かれている環境をもとに設定をしないといけないので、この二つの領域をもとに、自社のドメインを考えることが有効だと言われています。

欧米の企業には、短期的に結果を出さないといけない、つまり、経営者が株主の顔色を見て経営する傾向が強い会社があります。もちろん、欧米にも世襲制のような会社もありますから、そういう会社はちょっと別にして、経営者がその任期中にものすごい報酬をもらって経営に携わる、そして数年でまたプロ経営者として他社の経営に携わっていく。このような会社ですと、あまりこの事業ドメインというものは気にしません。でも、日本の市場で、日本の企業で成功したところは、このドメイン設定がしっかりなされていたから成功したという事例がたくさんあります。

 

たとえば、これも有名な話で、そういった記事をインターネット等で読まれたことのある方もいらっしゃると思いますが、プロ野球に横浜DeNAベイスターズという球団がありますけれども、もともとは観客動員が振るわなかったんです。で、その当時の社長はもう退任されていて、今はスポーツビジネスの会社を立ち上げられていますが、池田さんという、DeNAから出向していた人が、横浜DeNAベイスターズを人気球団に変えたんですね。その時におっしゃったのは、「自分たちの競合は、読売巨人軍ではなくて、東京ディズニ―ランドだ。」ということなんです。で、実際に、どの様な手を打ったかというと、たとえば横浜中華街であるとか、横浜エリアで人が集まるところに行っている人たちに、どうやって自分たちの球場、横浜スタジアムに足を運んでもらうか?を考えたんです。普通だったら、「野球を見に来る人が自分たちのお客様だ」と考えるわけですけれども、そうではなくて、中華街であるとか、いろいろな、人がたくさん集まっているところに行っている人たちが、自分たちの球場に来てくれて楽しんでもらえたら良いじゃないか、と考えたんですね。ですから、ビアホールのような直接、野球と関係のない施設を作ったりして、野球場を、別に野球に関心のない人が来ても楽しめるような施設にしていったわけなんです。これがもし、「自分たちはプロ野球球団である。」とか、「プロ野球というスポーツを見せるのが自分たちの仕事だ。」というようなドメイン設定であったならば、そこまでのことは考えられなかったと思います。でも、「自分たちはエンターテインメントを提供しているんだ。」と考えると、他の「人が楽しむところ」に行っている人たちを、どうやって自分たちの球場周辺に来てもらえるようにするか?を考えて、いろんなサービスについても考え直すわけなんですね。

USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)が立て直しがなされて、今、超人気のテーマパークになったというのも、森岡毅さんという方も、いろいろな本を書かれていますけれども、結局、ここのドメイン設定というものをしっかりとすることが重要なのだろうと思いますね。もちろん、事業をしていくには、他にも大事なことが沢山あるんですよ、でも、あえて絞り込むとするなら、事業ドメインの設定、ここを間違えると、なかなかうまく行かないということがあるんだろうなぁ、と私は思っています。

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