究光塾リポート

第二十八回 究光塾リポート

2019年01月16日

< 講師 中村より お伝えしたこと 抜粋 >

 

☑ 現状を把握する

ものごとを考えるうえでは、自分自身の現状を把握するということが重要であります。そして、自分自身の現状を把握するうえでは、自分に関係のある周りの人たちの状況を見る。自分の周りの環境がどうであるか?自分から見てどう見えているか?ということを考えてみる。で、それだけでは不十分で、逆に、周りの関係者から見た私(自分自身)は、どう見えているか?とか、どう思われているか?ということも重要になります。もちろん、周りから見て自分自身はどう見られているか?とか、周りは自分に対してどう思っているかなぁ?というのは、あくまでも仮説、推測の域を出ませんけれども...。 <自分から見て、自分は周りの人たちのことを「こう思っている」を考えてみる。逆に、周りの人たちは、自分のことを「こう思っているだろうな...」「こう考えているだろうな...」を考えてみる。

これは会社に置き換えても、同様です。会社の関係者といえば、お客様だけではなくて、例えば仕入先をはじめ、いろいろな取引先とか、いろいろな関係者がいらっしゃると思います。まだ見ぬお客様も含まれていても良いですね。

この両者をしっかりと考えられているということは非常に重要なことです。これがいわゆる「視座の転換」ということです。我々はよく、「お客様の立場に立って...」ということを言いますけれども、「それぞれの関係者の立場に立って...」ということです。で、その「お客様」というのも、単にお金をくださる方だけではなくて、たとえば、ある程度の会社になってくると、経理とか、総務とか、を専任業務としてやってらっしゃる方もいるわけですね。そういう人たちにとって、お客様というのは?・・・当然、自社の製品やサービスを買ってくださる方がお客様ですけれども、例えば自分自身が給与の計算をすることによって、誰が喜んでくれるのか?誰のために仕事をしているのか?というと、自社の社員の方々が、その人にとってのお客様になってくるわけですね。そうすると、社員の人から見て、「給与計算のミスが多いなぁ...」とか「正確に給与計算してくれているなぁ...」とか、同じ社内であっても、そういうふうなものの見方ができるわけなんですね。ですので、まずは自分自身にとっての社内・社外の関係者をきちんと認識できているかどうか?ということが、現状を把握するうえでの、ひとつのポイントになります。 関係者がたくさん出てこない場合というのは、本当の「視座の転換」ができていなくて、お客様であったり、市場であったり、関係者から見た自社であったり、自分というものが、常日頃、普段からなかなか見れていない、こういう傾向が強いと私は申し上げています。

 

☑ 現状を把握する2  「フレームワーク」なるもの・・・

いつも申し上げているように、「問題とは、あるべき姿と現状とのギャップである」ということで、理想の体重と現状の体重の事例をよくお話いたしますが、常に、我々は、あのように明快に状況把握ができるわけではありません、残念ながら...。現実は、何かモヤモヤっとしている状況、「なにか上手くいかないなぁ・・・」「この辺がダメだなぁ」と思っているものがあると思います。それが言わば「問題」なんです、「何か上手くいかないなぁ」「このあたりがダメなんだよなぁ・・・」と感じるというのは、自分のあるべき姿と現状との間にギャップがあるから感じるわけなんです。

自分の周りの環境、関係者について考える際のヒントとして、いわゆる「フレームワーク」というものがあります。私自身は、あまりフレームワークを使いたがりません。というのは、先にフレームワークありきで考えると、頭が固まってしまう、思考がフレームワークの枠組みに凝り固まってしまうからなんです。フレームワークはあくまでも頭の中を整理するために使うべきものであります。

たとえば、「3C」というフレームワークがあります。自分の関係者を考える場合に、"お客さま"が居て、"自社"があって、そして"競合"というものが考えられているか? 最近では、これに「チャネル」を加えて「4C」と言われたりもします。「チャネル」というのは「提供方法」「流通のプロセス」「お客様とのやり取り」のことを指しています。

また、「5F(ファイブフォース)」というフレームワークで、関係者を考えるとするならば、まずは上記「3C」と同じく、"①競合"=業界内の敵対関係が認識できているか? そして、"②売り手"とは「供給者」ですから、仕入に関する関係者などがあたりますね、そして"③買い手"というのは、お客様になります。そして"④新規参入"がどうなのか?ということ。例えば、今は、M&Aが盛んですから、資本力のある会社が業界内の中堅企業をM&Aして、業界に新規参入してくるというのが、よくあるパターンになっています。たとえば、今、ライザップという会社なんかは、自分たちで一からやるのではなくて、会社を買収し資本を入れることによって新規参入するということをおこなっていますね。

そして、"⑤代替品・サービス"ということで、いわゆる、代わりになるものですね。たとえば、ガラケーというもの、ここにいらっしゃる方は、もう一人も使ってらっしゃいませんね。もちろん会社用として使っている方もいらっしゃるとは思いますが...。あのガラケーというものは、スマートフォンに代替された、スマートフォンに代わったわけです。ガラケーだけではなくて、若い人だけではなく、私もパソコンを使わいようになってきているんですけれども、パソコンも、スマートフォンやタブレット端末に取って代わられていっているわけですね。

そして、昔から言われていることとして、「お金の流れが代わる」ということも「代替品」だと言われています。それは自分たちの業界内の話に留まりません。たとえば、今までは、月に1回散髪に行っていたけれども、全然、別のことにお金を使いたいから、髪の毛を切るのは2カ月に1回にするわ・・・となる。同じ業界内だけを競合・敵対する相手だと思っていたのが、「お金の流れ」ということで考えると、全然、違うところにお金が流れていってしまう、ということがあるわけなんですね。今、特に新規事業をやろうとしている会社なんかにですね、コンサルタントが言うこととして、「どこかの代替品になる市場を探しましょう・・・」と言うんですね。だから、今、使っているお金の使い方を変えていくというのも、実は、代替品なんです。だってそうでしょう、今、全く使っていないものに新たに使って行おうと思っても、収入が増えない限り、新たなお金って使ってもらうことが不可能なわけですよね。そうすると、今どこかに使っているお金を、うちに回してもらおうよね、というのが一番手っ取り早い。

例えば、我々の世代であれば、だいたい高校を卒業したら、自動車の免許を取りに行っていました。でも、今の若い子たちは、運転免許を持っていない人もたくさんいらっしゃる。車に乗ろうと思うと、運転免許を取るのに2、30万掛かって、駐車場代、保険代、あと車のローン、と考えたら、そんなの持ってられないよね、となる。なぜかと言うと、我々の若い頃というのは、今みたいに、スマートフォンをはじめとして、お金を使うところが今みたいに、いっぱいあったわけじゃないので、だいたいの男の子というのは、アルバイトをして、そのお金を車を買うために使うとか、合宿免許で車の免許を取るということにお金を使っていたんだけれども・・・。でも、今の若い人たちは他にお金を使うところがいっぱいあるので、逆に運転免許は別に要らないやとなる、街中に住んでいたら車は別に要らないし、逆に車を持つと返ってお金が掛かってしまう。そうでなくても、たとえば、運転免許は持っているけれども、車は買わなくて、カーシェアとか、レンタカーで十分だと、そんな高級車に乗らなくても良い、車は走ったら十分だ。今は、軽自動車でもしっかり高速道路でも走るわけですから、もうそれで十分だ、と考える。・・・こうなると、今まで自動車メーカーというのは、トヨタは日産、日産はトヨタとかホンダとかを、競合・敵だと思っていたのが、全然違ってくる。そうすると、例えばカーシェアとか、若い人たちのお金が流れていっているところから、どうやって、車を買ってもらえるように戻していくかを考えないと、駄目になってきているわけですね。そして、もう車にお金を使う時代じゃないから、他の事業をしようか、ということも考え始めるわけなんですね。また例えば、富士フイルムという会社は、フィルム時代にはカメラのフィルムを、またその後は使い捨てカメラを作っていたわけですが、フィルムというものがどんどんデジタルカメラに置き換わっていっているので、じゃあ、うちの強みを使って、今は、化粧品とか薬とかの分野に、うちの技術を転用しようかと、こうやってきているわけなんですね。

 

 

☑ 視座を転換する

プロ野球の読売巨人軍は、 どうして優秀な選手を集めるんでしょうか?...なぜ他チームの中心選手を集めてくるんでしょう。例えば、今回であれば、広島から、FA移籍で、丸選手を獲得しました。一つは自分のチームで優秀な選手が育っていないから、ということは考えられるでしょう。でも、それだけでしょうか?・・・立場を変えて考えてみてください。

立場を変えて、引き抜かれた方から見て考えてみるとどうでしょう。・・・そうなんですね、相手チームを弱くするため。それが発想の転換なんです。だって、それが一番手っ取り早いですよね。優勝した広島から丸選手がいなくなる、この影響は大きい。じゃあ、丸選手がいなくなるようにするには?・・・自分のチームに引き入れるのが一番手っ取り早いわけです。ですから、巨人に来てから前のチームにいたときほど活躍していない選手でも囲っていますよね。なぜかと言うと、また他チームに出て行って活躍されたら困るわけです。だから、自分のチームの二軍に置いておいても良いわけなんです。 巨人や阪神なんかはプレッシャーがかかるから、例えば、大田泰示っていう選手なんかは、日本ハムに行ったら活躍したりするわけですね。だからお金の力で、お金はないけれども、のびのびとやれる他のチームに行けば、こいつは力を発揮するなぁ、という選手を集めておく。そしてまた、他のチームで活躍している選手を引っ張ってくる。そして、活躍せずともトレードには出さず引退させて辞めていただく。これは実は野球好きの者からすると、よくよく話している話です。

実際、FA移籍で巨人に来ても何億分という年俸に見合う価値のある活躍をしていない選手の方が多いんですよ。何故それだけの失敗を繰り返しているのか?・・・「巨人は見る目がない」と言う人もいるんですが。私たちからすると、「いやいや、そうではなくて・・・」という話で。引き抜く方がよほど効果があるわけです。巨人は勝つと、とにかく収入が増えるわけですから、そうすると、引き抜いた方が良いという話になるわけなんです。本来は、広島や日本ハムのようにお金をかけずに選手を育てて強くなるのが一番良いわけですよ。それはもちろん巨人も分かっておられると思います。それでも何故あれだけお金をかけるか?・・・うちにはお金があるから、他チームから戦力を引き抜く。昔からそうじゃないですか、例えば金田正一さん、張本勲さんetc. 自分たちを強くするというのも、当然一番の目的ですよ。でも、どうして同リーグから選手を引っ張ってくるか? 中日が強かった時代にいろんな選手を引っ張ってきたりしましたけれども、巨人に来てからはそれほど活躍してないんですよ。また、ヤクルトが強かったら、ヤクルトから選手を引っ張ってくる。広澤選手もそうでしたし、外国人選手だってそうです。ペタジーニであるとか、DeNAの監督をしているラミレスもそうでしたよね。そういったことは、私たちから見ると、自分たちを強くするというよりも、相手の牙を抜いていっているようにしか見えないんですよ。自分のチームのピッチャーが打たれた選手を引き抜く。自分のチームのバッターが押さえ込まれたピッチャーを引き抜く。もしそのピッチャーが自分のチームから5勝していたとするならば、その5勝分の価値を買い入れているわけです。そういう意味では、仮にそのピッチャーが働いてくれなくても、それで5勝のったらいいじゃないか、ということですよね。

巨人の戦略からすると、他のチームに、ドラフトで素質のある選手を取ってもらって一生懸命育ててもらうわけです。 それでFA になった時に、「ウチにおいで・・・」とするわけです。どれだけ素質があったとしても育たなかった選手は、そもそもドラフトで取る必要もなかったわけですし・・・。でも、自前でも育成しないとお客さんも離れていくことを分かっているので、坂本選手や高橋由伸選手といった生え抜き選手も育てている。昔であれば、川上哲治さんとか、王さん、長島さんという選手もそうです。昔から巨人の戦略というのはあまり変わっていないんですよ。お金は持っておられるのでね。ただ、これからは、新聞社をオーナーとした時にどうなっていくか。今は、ソフトバンクとか楽天とかDeNAの方がお金を持っていると言われていますから。今後、同じ戦略を打ち続けていけるかどうか、という部分ではクエスチョンマークですね。資本力が違いますからね、今までの読売巨人軍と、ソフトバンクや楽天というのは・・・。ソフトバンクや楽天というのは、世界の会社を買いまくってお金を作っているわけですから・・・、それに対して、読売巨人軍は言っても国内の会社ですからね。お金の規模が違ってきていますね。

 

読売巨人軍が丸選手を取った。巨人ファンからすると、丸選手が入ることによって巨人が強くなる。でも、広島ファンからすると、丸選手が出て行くことによって広島が弱体化する。じゃあ巨人の狙いというのは、実は、広島を弱くすることなんじゃないか、というふうにも考えられるわけなんです。これが視座の転換という、ものごとの本質を考えるということになっていくんです。で、こうした思考ができないと、いくら戦略の勉強をしても、戦略の構築というものはできないんですね。いくらフレームワークだけを覚えたとしても、3Cとか、ファイブフォースとか、バリューチェーンとか、言葉だけ覚えても何もできないわけです。3Cとかファイブフォースを覚えることが、決して「考える」ことではないんですよ。フレームワークに言葉を当てはめることが、戦略を考えることでは決してないんです。本当にすごい方というのは、フレームワークの事は知らなくても、必要な観点を持ってものごとを考え、商売をなさっているから、成功しておられるというのが実態なんです。創業経営者の方が、「そんな勉強なんてせんでええねん」とおっしゃっているのは、ご自身がそういう観点を持ちあわせておられるからです。フレームワークといったものは、何もないところから考えられない人たちが考えられるように、学者が考えて、「こういうふうに考えたらよろしいんですよ」と提示してくれているわけです。でも、本当に学者の言っている意味合いのこと勉強せずに言葉や用語だけを使っている、言葉や用語だけを覚えて喜んでいて実際に使えないというのが実態です。で、また、そういう方々がいらっしゃるから、まだ私みたいなコンサルタントの仕事がある。皆さんが自分で考えてできるようになれば、私なんかの仕事はなくなるわけなので・・・、というように考えていただいたら良いかと思います。

 

 

☑ 中国の脅威

中国人というのは、今後、脅威になってくるでしょうね。実際に不動産の業界においては現実問題となっているようですね。実際に歴史を見てみても、華僑に代表されるように、中国人は現地に土着していく、そういう能力で日本人では真似ができない生命力が中国人にはある。そう考えると、労働人口が減っている日本というのも、逆に中国人から見ると日本の市場というのは、ものすごく魅力的なはずなんですね。どんどん仕事する人が減っていっているわけですから・・・。国力としても、影響力としても、中国の脅威というのは今後避けて通れない、どの業界でも避けて通れないところに来ているんだろうなと思います。日本人なら、「これはもう無理や、やめとこうか」というところを、中国人は、そこの無理をどうやって解除していくか、そういう思考を持っているんだと思います。

十数年前に、ある建材のメーカーさん、中堅中小企業ですけれども、お邪魔していた時に、当時、既に中国で生産をされていて、当時から中国人も雇っておられて、中国人の責任者が日本の会議にも参加されていました。当時、日本人が、(具体的な名称は忘れてしましましたが)ある認証マークを取得すれば信用が生まれるから、自社の商品が売れるのではないか、と発案し、幹部会議で議論になった時、中国人の責任者が、片言の日本語で、「そんなのおかしいネ、お客さんが不要だと思ったら、そんなの誰も買ってくれないネ」と言っていました・・・。日本人は何かそういった"お上"のお墨付きをもらえば商品が売れる、それが付加価値だと考えている。でも中国人は、「違う、違う、買う人がそれを必要ないと思ったら売れない」と考えていた。今よりまだ全然、中国が共産的な、共産主義的な色合いの強かった頃です。その当時から、そういう発想を中国の人は持っていた。こういう風なことなんでしょうね。中国人が出てくると駆逐されることが本当にこれからは出てくる 可能性はあるでしょうね。

今、違法駐輪を取り締まるのに、京都市内、この事務所のあたりもトラックが回ってきて、駐輪禁止エリアに勝手に停めている自転車を撤去しますよ、と日本語でアナウンスしながら撤去していくわけなんですが、最近は中国語でもアナウンスをするようになってきました。電車の中じゃないですよ、普通に我々日本人が生活しているところに、普通に中国語でアナウンスをしているわけですから・・・。世の中変わってきたなあと、この数年で。この流れの中に、どう環境に適応していくか?が必要になってくるんでしょうね。

そういう意味では、魅力的な市場や経営環境は、今や、国内企業だけではなく、中国人や外国人が目をつけるようになってきています。自分にとって見たい情報だけを見ていると気持ちは良いんですけれども、世の中はこうして動いてきているわけなんですね。自分にとって都合の悪い状況や、自分にとって脅威になるようなことからも目をそらさず把握していくことが、まず大事になってくると思います。

< 第二十九回 究光塾へ続く・・・ >

 

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